2005年11月01日

Trick or Treat(書きかけ)

「……なんであいつら、仮装行列なんてやってんだ?」
 圭吾はぼそりとつぶやいた。視線の先には、見知った女子学生たちが夜だというのに連れ立ってぞろぞろと歩いていた。よく見れば、それぞれにマントらしき黒い布に身を包んでいたり、フード付きのローブのようなものを着ていたりする。化粧も、わざわざ顔を青白く見せるように塗りたくっているのが多い。
「今日……あ、ハロウィンじゃないですか?」
「あー、そういや今日31日か」
 傍らの零の言葉に、圭吾もその単語を思い出した。久しく思い浮かべることもなかった言葉だ。
「中学生が仮装パーティーでもやんのかね」
「ミッション系の学校でしたか?」
「……だとしたら結構な皮肉だな。俺が連中を教えてるの」
 そう言ってにやりと笑った。零も意味に気付いて、小さく頷いた。
 誰かが2人の姿に気付いたのだろう、少しざわついてから、何人かが駆け寄ってきた。他の者も手を振っている。零は控えめに手を振り返した。
「先生!どうですかこれ!」
「不健康極まりねぇな。よく作ってあるが」
 真っ先に自分の衣装を見せびらかした愛香を、圭吾はばっさり斬り捨てた。近くで見ると、彼女が結構しっかりと顔を白塗りにしているのが夜目にもよくわかる。回りにいる4人も似たり寄ったりの格好だ。
「これから学校で仮装パーティーなんですよ」
「先生も来ません?」
「学校で?」
「はい」
 学校行事にしては時間も遅いし、日曜だというのにみんな楽しそうな顔をしている。圭吾はそれが意外だった。どちらにしてもついていく気はないのだが。
「悪いな、これから仕事だ」
 そう言って、トランペットのケースを見せると、愛香と隣の加奈は溜め息をついた。
「「いいなー」」
 同じトランペット・パートの2人には、バーで小銭を稼ぐくらいはできる圭吾がうらやましくて仕方がない。自分がそれに遠く及ばないのがよくわかるだけに、余計だ。
「まぁ適当に楽しんでこい。ほら、連中待ってんだろ」
「零ちゃんは?」
「私は先生と行くから」
 いつものことだ。やっぱりね、という反応を見せて、5人は圭吾に軽く頭を下げると友人たちのところに駆け戻っていった。
「……ふむ、適当に脅かすにはちょうどいいネタか」
「お化粧道具、ありませんよ?」
「カボチャ買ってきてくり抜け。スプーンはG'zで貸してもらえるだろ」
「カボチャ……」
 ちなみに現在夜8時半。零の知っているスーパーはどこも閉まっている。八百屋は言わずもがなだ。零はG'zの階段を下りるまで、町の地図を思い出しながら必死で3軒しかないスーパーの閉店時間を思い出していた。

 圭吾がジャズバー「G'z」のレギュラートリオの前で、性格に似合わぬ丸く優しい音を奏でている間に、零は圭吾にもらったナイフでカボチャの底と目玉に当たる部分を切り、スプーンでひたすら中身をほじくり出した。
「零ちゃん、それどうすんの?」
「たぶん、かぶります」
 真顔で応えると、聞いていた客は本気で驚いたようだった。零は頭が小さいから、そこそこ大きめのカボチャなら本当にかぶれてしまう。そして、一心に格闘しているカボチャは、何とかなりそうなぐらいの大きさがあった。
 ステージ上では、零の主人たる男が「My Romance」のソロを吹いていた。目を閉じて、優しく包み込むような音色で、技巧を抑えて音の伸びを楽しむようなフレーズを選んでいた。思わず、客の視線が圭吾に集まり、そして零に戻った。
「……ほんっと似合わないよなぁ、あの音」
「詐欺みたいな奴だな」
 思わず言い合うも、スプーンを動かす手を止めて睨みつける零を見て、口を閉じた。代わりに4つのため息が同時に漏れた。圭吾の本性を知らないジャズファンが、ちょうど終わった演奏に惜しみない拍手を与えていた。

「……それでお前、底に大穴開けたのか……」
「違うんですか?」
「……かぶりたきゃ好きにしろ」
 ステージから降りてきて、ほとんど身をくりぬき終えたカボチャを見ていた圭吾に、圭吾のというより零のファンである親父4人が一斉にブーイングをしたのだ。が、大方の予想に反して、圭吾は本気で驚いた。
「じゃあどうするつもりなんだよそれ」
「銀製のトレイに載せて、中にロウソク入れるんだよ」
「お前にしちゃ信じられんほどまともな回答だな」
「当然っしょ。上から血のりでもぶっかけたらいいムードが出るぜ」
「……前言撤回」
 顔をしかめる良識的な親父たちを尻目に、零は合点がいった、という風に手を打つと、店のトレイを一つ手に取った。銀製のはずはないが、夜道に置いておけば一応鈍色に輝いて見えるだろう。ひょいとカボチャを載せてみた。
「ほう、それなりに」
「……」
 もう一度カボチャを引き寄せて、口元をこりこりとナイフで削る。またトレイに載せて、少し離して見た。小首をかしげて、もう一度引き寄せる。削って、少し離して見る。さらに3回、口元を修正して、満足したように一つ頷いた。
「できましたぁうっ」
 振り向きかけた零を軽くつついて、圭吾はトランペットをケースにしまった。
「あれ、セカンドステージやんないのか?」
「今日はファーストだけ。また明後日な。マスター、楽器預かっといて!」
posted by alohz at 23:31| Comment(0) | 雑念 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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