2010年07月08日

「でもねー、難しいよね……」
 彼女の言葉に、俺は頷くことぐらいしかできない。彼女が抱えている問題は、俺が漫画や雑誌でしか見たことがないことで、答えはもちろん、それに近づくためのヒントを口にすることもできない。俺よりも常に先にいる人なのだ。
 俺はコーヒーをすすり、彼女は紅茶を口にした。
 話は音楽のことになった。最近聴いた、素敵な歌の話。俺も聴いていた曲だったから、ひとしきり話が弾む。そのうち機会があれば歌いたいんだけどね、と彼女は言い、歌えばいいじゃないと俺は言った。お互いに幾度となく言い合った言葉だ。
 俺は彼女の歌が好きだ。
 技術があるとか引き込まれるような力があるというわけではないが、思いをそのまま口にしているような素直さがある。プロとして何百人、何千人に語りかけるより、何人、何十人に歌いかけるのに向いた、パーソナルな歌だ。

 話は彼女の抱えたものに戻る。彼女は頑張っていて、それなのに、あるいはそれ故に、抱えきれないほどの辛いことを抱えてしまう。頑張ったことがほとんどない、逃げから始める俺が持っていないものを、逃げない彼女は持っている。逃げられる俺が持たないものを、逃げられない彼女は持ってしまう。
 だから彼女は魅力的なのだ。苦しむが故に。
 だから彼女は苦しむのだ。魅力的であるが故に。

 彼女が紅茶を飲み干し、俺のコーヒーが空になっても、彼女は答えを見つけられなかった。会ってすぐの頃からたまに見ていて、最近はもう見慣れてしまった顔をして、席を立つ。
 その顔、自嘲の笑みも、彼女が浮かべるとたまらなく魅力的なのだ。

posted by alohz at 01:18| Comment(1) | TrackBack(0) | [短編]日常の風景 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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Posted by エリザベス女王杯 at 2011年11月03日 02:25
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