2008年09月03日

お兄さんは心配性

 うちにいるボーカロイドはミクだけだ。そもそもは1曲、それもコーラスとかは特にない曲を歌わせるために呼んだから、考えてもいなかった。だから、うちのミクも兄姉たちの声はスピーカー越しにしか知らないし、特に呼べと言われたこともない。
『……ねーキョーくん。そのサムネ、何?』
 ほぼ日課のニコニコ巡りをしていると、ミクが肩越しに顔をのぞかせた。
「ん?どれ?」
『一番左の上から……1、2、3番目』
 ミクが言ったサムネイルは俺も見たことがない。動画のタイトルには「KAITO オリジナル曲」と書いてある。
『カイトにーちゃんの曲なんだね』
「だな。絵は……なんだこれ、ちっちゃいとわかんねーな」
 白い背景の真ん中に何か描いてあるのだが、イマイチよくわからない。クリックしてみると、大きくなったそれは見事なバックドロップだった。
『……』
「お見事」
『ミク、こんなんできない』
「できてたまるか」
 できたら俺の身が危ない。
 曲の方は、夜だから少しロードに時間がかかるが、それでも FTTH 回線は大量のデータを1分もかからずに送り届けてくれた。いきなり始まったカイトの合唱で、俺は軽く吹いた。
「なるほど、タイトル通りだな」
『……そうなの?』
「元ネタは I love daughter だけどな」
 元ネタを見たことがないのだろう、ミクは小首をかしげた。ま、そりゃそうだ。ミクはうちにない本はネット経由でしか読めない。
 曲が進むにつれ、段々ミクが引いていくのがわかる。途中ちょっとムッとした顔になったので、そのときだけはあやすように撫でてやったけど、俺の方は歌詞ににやにやしつつもメロディーの方が気になった。無軌道に感じるほどころころと調が変わるのだ。これでよく破綻しないものだ。
 妙に耳馴染みのある断末魔の声と共に、曲は終わった。
『キョー君』
「ん?」
 変に冷静な声が気になって目を上げると、何やら悟ったような顔をしたミクが、ゆっくりとこちらを見下ろした。
『カイトにーちゃんは呼ばないでね』
「いや、別に KAITO が必ずこういう性格って訳じゃないんだが。曲だし」
『呼んだら……あの……ばっくどろっぷ?』
「するな。頼むから」

+with the sound of [お兄さんは心配性] by すけ P+

posted by alohz at 09:00| Comment(0) | TrackBack(0) | [短編]ミクと俺と音楽と | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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