2008年08月10日

ミクと初音ミクの暴走

「ミクー?」
『なぁに?』
 ベッドの上に寝っ転がって漫画を読んでいたミクが、ぴこっと頭を上げた。ツインテールが一緒にしゅっと上がって、なんだか耳の長い犬みたいに見える。しかしこの髪、実際に見るとホントに長い。
『なに?呼んだだけ?』
「ん?ああ、すまん」
 思わずぼーっとしていたらしい。何か面白い勘違いでもしているのか、にやーっと笑っているミクに軽く訊いてみる。
「お前は自分のこと『ボク』とかって呼ぶ気はないのか?」
『ボク?なんで?』
「いや、公称16歳で自分のこと名前で呼ぶのはさすがにおかしいだろ」
 こっそり心の中で、見た目からするとぴったりだけどな、と付け加える。そんなことは知るよしもなく、ミクは首を傾げた。
『ボク、ボク……なんか変な感じ』
「んー、じゃ『あたし』だったら?」
『あたし、あたし……んー、やっぱ変な感じ。ミクはミクだもん』
「なんかそれ意味違うような……」
『?』
 ちょうど今聴いていた曲を巻き戻して、音量を上げる。「初音ミクの暴走」だ。で、A メロが終わったところで止めた。ベッドの上にアヒル座りして、ぽへーっとこっちを見ている。
『…………』
「どした?」
『……キョー君はいわゆる幼女の世界[ロリコンわあるど]?』
「違うっ!そこはスルーしろっ。スク水にも興味ないっ」
 事実だ。いくらミクのほっぺたをぷにぷにするのが大好きだといっても、それは猫の肉球をぷにぷにするのが好きなのと同じでロリコンではないし、スクール水着を食べたりしない。
『だよねー。ミクのオトナの魅力にメロメロだもんねー』
「……ほっぺたぷにぷにつるぺたさんのお前のどこにオトナの魅力が?」
『なにをー!』
 がばっと起き上がって漫画を放り出すとだだだっと走ってくる。ミクの暴走からパソコンを守るため、跳び蹴りを想定して身構えたが、ただの体当たりだった。しかと受け止めてすばやくほっぺたをつまんでやる。
「ほーらぷにぷに」
『うー……やめれっ』
 いつもならこっちが止めるまでじっとしているが、今日は珍しくぷるぷると首を振った。素直に離してやると、ミクはかわいらしい怒り顔で俺と目を合わせた。俺は座っているから若干見上げるくらいになる。
『ミ……ボクだって16歳の女の子なんだからねっ』
「お、自然」
 どっちかというと主張よりも一人称の方に反応してしまった。
『だから!オトナの魅力たっぷりなのっ』
「……?」
 俺がよくわからんという顔をしていると、ミクはますます不満そうな顔で俺のほっぺたをむぎっと掴んだ。
「痛い痛い」
『だからっ、ボクだってもうオトナなの!それとつるぺたじゃないもんっ』
「ほーう?それは確かめてもいいってことか」
『いいわけないでしょっ!キョー君のエッチ!ロリコン!』
「どっちだよ」
 まぁ、単に何か叫びたかっただけだろう。
「大体、普通16歳ならオトナの魅力はあんまりないと思うけどな」
『……そうなの?』
「そう思うけど。16歳ったら高校の後半だろ?その辺の高校生はオトナっつーよりは若者らしい魅力が溢れてると思うんだが」
『……ミクみたいに?』
「……」
 俺が思わず即答しなかったら、ミクの手が俺の頬をぐいっと伸ばした。
「いててて、冗談だって」
『ぶーっ』
 俺が手を抑えて離させると、ミクは渋々手を離した。体温高めの小さな手の爪には、髪の色と同じエメラルドグリーンのマニキュアが塗られている。今はオーバーニーの靴下に隠れて見えないが、足の爪にも同じ色のペディキュアがきれいに塗ってある。
「そうだな、お前この手はちょっとオトナっぽいかもな」
『手?』
「そ。手がきれいってのはポイント高いぞ」
 そう言って、舞踏会なんかでやるように、右手でそっとミクの左手を取った。きゅっと握るのではなく、ただミクの手の平を乗せて指を軽く軽く包む。さすがに手の甲にキスまではしなかったが、それでなにやら満足したらしい。
『そっか……』
「ま、オトナかどうかよりもミクがミクらしく魅力的かどうかの方が重要だけどな。素材はすごくいいんだし」
 ついでにフォローのつもりで言ってやると、ミクはちょっと驚いた顔をして、すぐににこっと笑った。
『へへー。やっぱりキョー君、ミクにメロメロだ』

+with the sound of [初音ミクの暴走] by cosMo+

posted by alohz at 22:16| Comment(0) | TrackBack(0) | [短編]ミクと俺と音楽と | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:


この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。