2006年08月21日

第二部 序章

 ミーンミンミンミンミー……ミーンミンミンミンミー……。

 屋上の日射しは強かった。明日から夏休みに入る、という日。手に持たされた宿題の重みも忘れて、皆1ヶ月半の休みを前に浮かれている。
 私もその1人だ。だから、たった一月のお別れの前に、暑いのを承知でこんなところに寝っ転がっている。制服もしばらく着ないのだから、多少汚れたって構うことはない。

 あの日も暑かった。蝉の声がうるさくて仕方がなかった。それでもここに上ってきたのは、手紙で呼び出されていたからだ。去年の7月13日、期末テストが終わった日だった。
 告白劇はほんの数分で終わり、私は帰る気にもならなくて、屋上に寝っ転がった。その時、たまたま彼が残って私が帰っていたら、私が彼と付き合っていたら、誰かがその時上ってきていたら。
 全てが変わっていたに違いない。

 私がいて、他に誰もいなかったから、彼女は私を選び手を取ったのだ。彼がいたら、彼が選ばれてサイラークへ行ったのだろう。
 もし誰もいなかったら?
 彼女はいつものようにありきたりな悪態をつきながら校舎をうろつき周り、「適当な人材」を求めたかもしれない。すなわち、「最初に月の神官と視線を交わす者」を。

 彼女が人の少ない校舎をぶつぶつ言いながら歩く姿を想像して、可笑しさがこみ上げてきた。あまりにも彼女らしかったし、それがまざまざと想像できてしまったのだ。誰もいないのをいいことに、声に出して笑った。
「シェリルだわ」
「お、よく気づいたな」
 独り言に返事が返ってきた。思わず飛び起きて、声のした方を向いた。赤い髪、青が基調の重そうなトーガ。月の神官シェリル・シェーラはにかっと笑って言った。
「久しぶりだなトーコ、いや、黒き月。悪いがまた力貸してくれねーか?」

posted by alohz at 21:00| Comment(0) | TrackBack(0) | [短編]ファンタジー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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