2005年08月22日

たたみのねごこち

ミーンミンミンミンミーン……ミーンミンミンミンミーン……。
夏のある日。家にはほとんど人気がなかった。
日差しを受けるのは家と木々のみ。しかし蝉の音を聴くのは他にもいた。
縁側のある一室に、少女が1人寝転がっていた。
祖母から留守番を言いつかって、いつものように畳の上にいるのだ。
古い型の扇風機が、首を振りながらかすかに少女の髪を揺らしている。

木をタイルのように組んである天井をぼんやりと眺め、つと視線を下ろすと。
誰も座っていないちゃぶ台がある。座布団は2枚。
少女と、その祖父のために敷いてあるのだ。

「おじいちゃん」

見えるはずの背中。痩せてはいても、年のわりにがっしりした背中。
重くなったな、と言いながら、いつも軽々と少女を乗せてくれた背中。
その背中が不意に動き、おう、こっち来い、と言って少女を呼び寄せる。
わざわざ向かいに座布団が敷いてあるのに、少女はその背中に向かっていった。
なぁに?
わしの友達が絵葉書送ってきたんだ。ほれ、きれいな海だなぁ。
わぁ、ホントにきれい。どこのうみ?
んー、ピピ、つうところらしいな。
ぴぴ?かわいいなまえー。
祖父の肩越しに見たスカイブルーは本当にきれいだった。

祖父の一番好きだった着物を着ていると、にっこりと笑ってほめてくれる言葉が聞こえてくる。
祖母に手伝ってもらって着ていると、祖父に近づいたような、遠ざかったような気がする。
少女は祖父を思いながら目を閉じた。

posted by alohz at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | [短編]日常の風景 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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