2005年05月12日

自動人形

 初めまして。当家の女中頭を務めております、フローレンス・ジルベルシュテインと申します。失礼ですが、貴方様のお名前をちょうだいしても――ああ、承っております。申し訳ございませんが、主人はただいま少々手が離せないと申しておりますので、応接間にてお待ちいただけますでしょうか。――恐れ入ります。それでは、こちらへどうぞ。ああ、コートをお預かりするのを忘れておりましたわね。これは失礼をいたしました。
 ただいま紅茶をお持ちいたします。少々お待ち下さいませ。

 お待たせいたしました。どうぞお召し上がり下さい。――はい?ええ、じき参るかと存じます。主人が参りますまでは私がお相手を務めさせていただきます。
 あら、主人が申しましたでしょうか。はい、間違いなく、私は自動人形[オートドール]でございます。ボディーは軍用の義体に主人が手を加えまして、勝手に AFG-03 と型番を振りました。ええ、もちろん登録されておりませんわ。本来の義体のパーツ以外にいくつものパーツを寄せ集めて作られておりますから。
 主人は私を悪戯心の具現と申しますわ。無駄な機能が付いているからでございましょう。――は?例えば、でございますか?そうですね、例えば私の左目には赤外線カメラが内蔵されておりまして、当家に入られる方々の荷物をチェックさせていただいております。――はい。申し訳ございませんが、貴方様のお荷物も確認させていただきました。主人は敵も少なくないものでございますから――お心遣い、痛み入ります。他には……私には人間のそれとほぼ同じ仕組みで体内の老廃物を排出するようになっています。――はい、そういうことでございます。本来は別の方法での除去も可能なのです。それをわざわざ残しておいたのです。特に何の役に立つわけでもございませんのにね。

 ――軍用の義体を使っている理由、でございますか。それは簡単ですわ。私に武装させるためでございます。現在は大したものは持っておりませんが、体内に火器を内蔵しましたり、対装甲車用の重武装を扱うのは一般の義体では難しいですし、出力や筋力も一般のものとはかなり離れております。戦闘に限ったことではなく、様々なことができます。
 え?あら、お詳しいのですね。お考えの通り、私には自動人形三原則は組み込まれておりませんわ。私の“本能”は2項目しかございません。いかなる状況下であっても主人の撤回のない限りその言葉に従うことと、常に思考し成長すること、この2項目のみが私の持つ絶対の鉄則でございます。――ふふ、私は感謝しておりますわ。自分の主を守る能力を、主人は完全な形で私に与えたのですから。
 確かに一般の方は不安を覚えられても仕方のないことでございますね。ですが、刺客に遠慮して止めることのできぬ護衛に何の意味がございましょう?私は今の主人のために生きることに満足しておりますわ。それに主人も私同様、野心や権力欲とは無縁の人間ですわ。貴方様もご存じかと思いますが……。ええ、ですから外から攻められぬ限り、私はただこの館を管理し主人のお世話をしているだけで満たされますわ。
 ――貴方様は聡明な方ですわね。私の忠誠を「愛」と表現した方はいらっしゃいませんでしたわ。おっしゃる通り、私は主人を愛しております。――私の行動は完全にプログラムで制御されておりますが、私の思考は“本能”に基づき常に変化し成長しております。既に主人も私の思考を、プログラムを辿ることで読み取ることはできません。知るのではなく、他の人間と接する際と同じく、判断しているのですわ。私の思考の限界を取り払ったのも主人でございますから、こうなることはわかっていたのでしょう。
 ――あら、主人が降りて参りましたわ。その、私からお話ししておいてこう申しますのもなんですが、今の私の話はご内密にお願いできませんでしょうか?――まぁ、ありがとうございます。――それは……恥ずかしいではございませんか。お茶を淹れ直しますわ。失礼いたします。

posted by alohz at 00:10| Comment(0) | TrackBack(0) | [短編]ファンタジー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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