2004年09月26日

贅沢な日常

 2階の座り慣れた椅子に腰を下ろして、ホッと息をついた。斜め下に見えるTV画面には、見覚えのある女性シンガーがビッグバンドを従えて歌っていた。スピーカーはライブ演奏と共用のものだから、音はいい。音源がDVDなのだから余計だ。
 一曲丸々聞き終える前に、コーヒーを持ってきてくれた。ここはバーなのでさすがに驚くほどの味じゃないが、その辺の安いカフェのレベルは十分にクリアしているので、問題ない。熱いうちに一口。
 今日は金曜日だから、ライブはファンク主体のバンドだ。ヴォーカル兼ギタリストは魅力的な声をしていると思うけど、どうやら録音はなさそうだ。洋楽のコピーが主だからかもしれないが、でもそれは俺が彼の歌をライブバーでしか聴いたことがないからかもしれない。その辺りの事情はよくわからない。時間が近づくにつれて、キーボードやベースが準備を始め、俺は a day を広げた。内容が濃く字も小さいから、照明の暗いここではいつもより時間を食う。ゆっくりと読んでいると、突然ピィーッと耳をつんざくような音がした。驚いて目を上げたが、音の出所はわかっていた。ベースアンプの電源がオンになっている時にシールドを挿そうとしたのだ。何度も聴いたノイズだ。毎週同じセッティングでやってるはずなのにな……。開演前に雑誌を読んでいる間にもう2回、アンプからのノイズにびっくりさせられた。

 隣に人が来た。フロアのリーダーかマネージャーでもやっているような、年上のウェイターだ。俺が1人なのを気にしてくれているのか、時々話をしに来てくれる。別に大した話をするわけではなく、ほんの挨拶程度の会話だが、彼は俺がライブ目当てなのをわかっていて、「あと少しで始まる」とか「今日はどうだった?」とか、英語混じりで話しかけてきて、いわば「空白を埋めて」くれる。
 彼が去って、文字にまた目を落とす。ゆっくりゆっくり読みながら、頭がぼうっとしてきた。ふと気付いたら寝ていて、はっと目を覚ます。これから音楽を聴くのに、これじゃまた聴きながら寝てしまう。本は諦めてカバンにしまった。さっきまでBGMにしていたDVDにしっかり視線を向けると、ハスキーな歌声に少し頭を刺激された。目が覚めてくる。
 前奏が始まった。え?と思ってステージに目を向けると、いつの間にやら全員揃っていた。準備はとっくに終わっていたのだ。俺は少し浅く座り直すと、サックスのメロディーに耳を傾けた。

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posted by alohz at 09:00| Comment(0) | TrackBack(0) | [短編]旅の言葉 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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