2009年02月22日

とあるお見合いの席

 和室に正座する若い男女。
 女性は両親に挟まれ、男性は父親と叔母に挟まれて、向かい合っている。
「あの、ご趣味は……?」
 男性が切り出す。女性ははにかみながら返す。
「ネット動画を少々……」
「ほう。いいご趣味ですね、どの辺りをよくご覧になります?」
「MAD を主に……それから、楽器演奏も時折見ます」
 男性の叔母はそれってどういう……と口を挟みかけた。が、それよりも早く、目を輝かせた男性が答える。
「普通ならなかなか見られないものもありますし、時間を忘れてしまいますね。コメントなどなさるんですか?」
「ええ。その、お恥ずかしながら職人の真似事などしております」
 先刻以上に恥ずかしそうに言う。場にそぐわない単語に両家の親はやや戸惑った視線を交わしている。
「なんと。歌詞ですか?」
「いえ、その……いわゆるコメントの方を……」
「すごいんですね。私はコメントはまったく不調法なもので……」
 男性の賞賛に、女性はそっと笑った。恥じらいの中にもほのかな自負を匂わせる微笑み。
「あら、コメントはなさらないんですか?」
「ええ、見る方に夢中になってしまって。でも、たまに、ですが吹いてみたなどすることもあります」
「まぁ、吹いてみたを?何を演奏されるんですか?」
「クラリネットを少々」
 今度は男性の方が、やや気恥ずかしげな笑みを浮かべる番だ。そしてクラリネット、と口にした瞬間、彼の叔母は自分のターンを敏感に読み取った。
「ええ、明彦君は中学の頃から楽器をずっと演奏されているのよ」
「止してください。そんなに大それたものじゃありませんよ。ただ自分の楽しみでやっているくらいですから」
 叔母の言葉に苦笑気味に答える。それが届いているのかいないのか、女性の方は重ねて尋ねた。
「クラリネットはそれほど多くありませんから、拝見しているかもしれません。どんな曲を上げられたんですか?」
「そうですね、今までに上げたのはサイハテとアストロノーツ、それにちょっと違いますが、芥川龍之介の河童のアレンジとか」
「芥川……あ、にとりですか?」
「そうですそうです」
 曲名だと推察して、ここは引きどころと叔母。親達は怪訝そうな顔で若い二人を見つめていた。女性の母親は、どこでホームセンターの話になったのだろうと眉をひそめた。
「普段はぼかろがメインなんですが、たまに東方にも手を出してまして。特ににとりの唄はアレンジのアレンジなのに結構聴いていただいているみたいですし、職人さんもいらしてましたね。それはにとりが初めてだったんです」
 熱っぽく語る男性に、女性は何かを思い出したような顔をした。
「あの、ひょっとしてその動画、今年の三月頃じゃありませんか?」
「ええ、そうですが、ひょっとして聴いていただいてますか?」
「いえ、それどころか」
 女性の頬がすうっと朱に染まった。
「その職人、きっと私です。月のワルツみたいですごく怪しい雰囲気のはずなのに、優しい音色だったのでびっくりして、何度も聴き返したんです」
「本当ですか?」
「はい。それで思わず、拙い AA を入れてしまいました」
「あれが、貴女だったんですね……ありがとうございます」
「いえ、そんな。貴方の音楽がすばらしかったからです」
 いつしかお互いに頬を染めて、見つめ合う。一言ごとに頭の中に積み上がっていく疑問符を押しのけて、叔母はただ一人、この縁談の成功を確信した。
posted by alohz at 02:39| Comment(23) | 雑念 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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